• 『阮慶岳四色書』
    著:阮慶岳 
    新新聞文化 2001
    231×180×15 mm

  • 王さんが父の活版印刷所から
    持ち出しておいた活字の数々

王志弘

Wang Zhi-Hong | ワン・ジーホン

2000年に個人スタジオを設立してからは、最初からブックデザインをメインに手がけていたのですか。

  そうです。当時、デザインを学んだ人は皆、花形の広告業界に集中していたので、ブックデザインを手がける人はとても少なかったように思います。広告の仕事ができない人がブックデザインをやるというような風潮がありました。とてもマイナーな分野だったのです。

そういうなかで王さんは良いお仕事をしてこられていますが、何か転機になった作品というのはあったのでしょうか。

  かれこれ15年ぐらい前になりますが、『阮慶岳四色書』という本です。この本がきっかけで、僕は自分のスタイルを確立しました。以前の台湾では、ブックカバーといえば、絵を中心に構成することが必須条件で、タイトルはいつも決まった位置に単純に並べるだけでした。そして印刷の後、PP加工を行なうのが慣例で、そうでなければ本が完成したとはいえないという古い考えでした。かなり遅れていた当時の状況は、いまの台湾からは想像できないと思います。そうしたなかで、慣れ親しんだ中国語の繁体字を駆使し、版面という特殊な空間にそれらを配置すること。初めてそれを実践できたのが、この本です。このデザインを通じて、本当に多くの発見がありました。タイトルが「四色書」なので、表紙を4つの空間に隔ててみたり、計算に満ちたデザインとなっています。この本を機に僕はタイポグラフィを強く意識するようになりました。カバーデザインを考えるとき、文字が主役として前面に来るようなデザインを心がけていくようになったのです。当時、ブックカバーが文字だけでデザインされているものはほとんどありませんでした。僕が何年もそれをやり続けてきた結果、いまでは出版社から「タイポグラフィだけでデザインしてほしい」という依頼が来るようになりました。

ずいぶん状況が変わったのですね。

  この数年でブックデザインを取り巻く状況は大きく変わり、いまでは、ブックデザイナーを志望する大学生も増えました。この5年ほどで台湾のデザインの注目度が上がってきたのは、ブックデザインと深く関係していると僕は考えています。台湾を代表する主なデザイナーたちは、みんなブックデザインから活躍の場を広げていっている。これは他国には見られない、めずらしい状況なのかもしれません。一国のデザイナーがブックデザインという分野に集中しているというのは、日本でもありませんし、ドイツなどヨーロッパ諸国でもありえないでしょう。なぜなら、ブックデザインはそれほど収入の高い領域ではないからです。しかし本とは、良いデザインを生み出すための空間を秘めたものです。日本と比べて台湾のデザインは遅れていますが、その分、多彩な進展の可能性を秘めているのかもしれません。台湾においては、ブックデザインが広告デザインをリードするかたちで、今後発展を遂げていくのだと思います。

———
静かな人である。

しかしデザインについて語りはじめると、言葉は途端に熱気を帯びる。彼はまず、対象のことを徹底的に知ろうとする。そして、対象と自身の関係性を考える。そこからデザインを導き出す。彼はデザイナーであると同時に翻訳者かつ編集者であり、デザイナーである以前に一人の読者である。その複数の立場を自覚的にこなすことが、彼のデザインの特徴となっている。

タイポグラフィへのこだわりや、紙や印刷加工への探究心といった趣向を凝らした意匠面は確かに彼の仕事の個性なのだが、それらは作家や作品への深い理解と彼なりの翻訳作業があってこそ生み出されたものだという裏づけこそが、表層的にとどまらない王志弘のデザインの特徴であり、魅力なのだろう。


王志弘|Wang Zhi-Hong

1975年台北生まれ。2000 年に独立し、個人スタジオを設立。2008年出版社と提携し、アート、デザイン分野を中心に荒木経惟、佐藤卓、橫尾忠則、中平卓馬、川久保玲などの著作を台湾に紹介。これまで6回にわたり台北国際書展金蝶奨のグランプリを受賞。そのほか、HKDA Global Design Awardsデザイン協会主催の世界デザイン大賞)の葛西薫審査員賞と銀賞、韓国パジュ(坡州)出版美術賞、東京TDC入選。国際グラフィック連盟(AGI)会員。