• 『無限的網:草間彌生自傳』 INSIGHT 5
    著:草間彌生 訳:鄭衍偉  
    原題: 「無限の網(インフィニティ・ネッツ):
        草間彌生自伝」
    出版:木馬文化 発行:遠足文化 2011
    201×140×25 mm 

    左頁上はカバー付き、
    下はカバーを外した状態

  • 『盛開的櫻花林下』
    著:坂口安吾 訳:鄒評 
    邦題: 「桜の森の満開の下」
    新雨出版社 2015
    210×150×17 mm

王志弘

Wang Zhi-Hong | ワン・ジーホン

著者と自身の共通点に思いを巡らす

次に『無限の網/草間彌生自伝』(『無限的網:草間彌生自傳』)のデザインについて聞かせてください。

  あるアーティストの本をつくるというとき、多くのデザイナーはどうすればそのアーティストにデザインを近づけることができるかを考えますが、僕は、僕とアーティストの間にどんな共通点があるのかについて思考を巡らせます。草間彌生といえば水玉(ドット)ですが、彼女のドットは僕にとっての何なのかということを考えていきました。このカバーに整然と並んだ規則正しいドットは、草間のドットではありません。彼女のドットはもっと不規則です。草間にとってドットは最も重要なモチーフですが、同時に、ドットとはきわめて普遍的なモチーフでもあります。この本をデザインするにあたり、ドットと僕の関係を改めて考えてみたとき、僕が一番身近に触れているドットは印刷の網点でした。そこで、印刷におけるCMYKの網点をイメージしてカバーをデザインしました。

表紙にはタイトルが入っていないのですね。台湾では本にカバーをかける場合、本の本体にタイトルを入れなくても大丈夫なのですか?

  十数年前まであまり許されませんでしたが、いまはどちらでも構いません。台湾のブックデザインにはあまり細かい決まり事というか、タブーがないのかもしれません。

この本も、編集から手がけていらっしゃるんですか。

  はい。この本の場合、原書でも写真は口絵として前にまとめられていますが、ぎっしりと詰め込まれるようなレイアウトでした。僕にはどの写真も大切に思えましたし、写真が生きる一番良い見え方でゆったりレイアウトすることが重要だと思っているので、原書のような過密なレイアウトにはしたくなかった。1枚1枚、きちんと価値のある、伝わる写真として見えてほしかったんです。僕はデザイナーであると同時に、一読者でもあります。だからこそ、より良いかたちで本が世に出されたらいいなと思っています。

坂口安吾の『桜の森の満開の下』(『盛開的櫻花林下』)。このブックデザインもとても凝っていますね。

  これは坂口安吾作品で僕がデザインを担当した2作目です。最初に手がけたのは『堕落論』でした。『桜の森の満開の下』というタイトルは、僕にとって風景そのものでした。何かのカレンダーに載っている美しい風景写真のような印象。しかし読者にはそんなふうにストレートに感じてほしくなかった。このため、「ANGO」という文字を桜の花びらに見立てて構成しました。ひとつひとつの文字は一筆書きになっています。「満開の桜の下」というのは、花びらがひらひらと舞い散っている情景を表しています。そこで、桜の花びらに見立てた文字がひらひらと下に落ちていくシーンを表現しようと思いました。

カバーには何かの文字が空押しもされていますね。

  本文の一節を引用し、空押ししています。帯もこだわりを持って仕上げました。台湾では以前、帯のデザインは重視されていませんでした。台湾のブックデザインの歴史のなかで、帯をデザインする発想がまだ乏しかったころ、そのスペースはまったく有効活用されていなかった。しかし僕は早くから日本での帯の使われ方を観察しており、その活用法や仕掛けから、帯の面白さと可能性を感じていました。それで、帯にも凝ってデザインをするという意識を台湾に導入していったんです。

カバーと帯で、絵柄や空押しの文字がずれないようになっている。

  書店から家に本を持ち帰った後も、帯を捨てるのがもったいないと、台湾の読者に感じてもらえたらと思っています。

カバーは特色2色……いや、バーコードをスミで印刷するために、3色印刷なんですね。そして空押しが施されている。

  そうです。

花びらの散るカバーをめくると、樹の幹に見立てた表紙が現れる。

  この強い木目調の質感の紙は、いつか使ってみたいと思っていたものです。今回ぴったりだったので、使うことができました。

表紙は、金で文字を印刷しているだけでなく、図柄を箔押ししていますね?

  凹凸感のくっきりした紙なので、図柄を鮮明と見せるために箔押ししました。文字は細かいので、箔押しだと潰れてしまう。だから印刷にしたのです。

別丁扉はうっすらと透ける片艶の紙を使っています。細部にいたるまでこだわり抜かれたデザインですね。

  表紙、カバー、帯、別丁扉、見返しは、すべて竹尾の紙を使っています。僕がブックデザイナーとして独立した15年前、台湾の出版業界では、紙を選ぶことは許されませんでした。一番安い紙しか使用することができず、とても険しく厳しい状況でした。長い年月をかけてブックデザインに必要なさまざまなことを普及させていった結果、いまでは竹尾の見本帳から紙を選べるようになったんです。大きな進歩だと思います。見返しは、日本の方法を真似てつけてみました。台湾には、見返しをつける習慣がありません。僕自身にとっても初めての試みでした。この本は並製本(ソフトカバー)ですが、見返しには、表紙と本文を支える効果もあるので、本を持ちページをめくったとき、上製本(ハードカバー)のような質感を楽しむことができます。