• 『1972 青春 軍艦島』 SOURCE 7
    著:大橋弘 訳:彭盈真 
    臉譜出版 2013
    237×175×16 mm

  • 『1972 青春 軍艦島』に掲載されている軍艦島の地図

王志弘

Wang Zhi-Hong | ワン・ジーホン

翻訳出版の場合、表紙まわりだけでなく、中のデザインにも手を加えるのでしょうか。

  それは本によってまちまちです。元のフォーマットを流用するものもあれば、部分的に手を加えることも、最初からすべて編集し直すこともあります。たとえば『1972 青春 軍艦島』は新たに構成し直しました。

ブックデザインも内容構成も、まったく違う本になっていますね。

  日本の本を台湾に紹介するにあたっての僕なりのこだわりは、「自ら責任を持ちデザインを手がける」ことなんです。僕たち台湾人は、日本のブックデザインをずっと美しいと思ってきました。ですから、台湾の人々がその中国語版を手にしたとき、クオリティに差のないものであってほしいという願いがあります。僕はブックデザイナーであるだけでなく、翻訳者の役割も担っている。ここで言う翻訳とは、内容そのものをどう置き換えるか、ということです。だから日本語版を中国語版に変換したとき、さまざまなことを考慮しなければなりません。

本の内容をふまえて台湾で出版するにあたって一番良いかたちを考え、デザインに落としこんでいる、と。

  そうです。この本の出版を決める前に、軍艦島のドキュメンタリー映画も観ました。軍艦島はかつて海底炭鉱が開かれていた島で、その限りある土地に多くのコンクリート建造物が建てられました。日本最古の鉄筋コンクリート造の集合住宅もあるそうです。そんな建物で埋め尽くされている島であるという物質的なところから、僕は『1972 青春 軍艦島』のデザインにアプローチしました。グレーの重厚なハードカバーの表紙、これはコンクリートの重厚感を表し、文字をマットな質感の黒の顔料箔で押すことで、石炭を表現しています。軍艦島の建造物は、綿密な都市計画にもとづいて建てられたものではなく、雑然としていて、集合住宅地には違法建築物のようなものもいくつか混ざっています。その雰囲気を表現すべく、わざと表紙にさまざまな書体を混在させました。文字の並べ方も水平垂直には置かず少しずらして、意図的に雑然と見えるようにしています。この文字群が、軍艦島に密集して立ち並ぶ建築物群のように見えればと思いました。「軍艦島」の文字に添えられた「480m」「160m」の数字は、本の中にも掲載している、著者自身が描いた島の地図から拾ってきたものです。ここでは「軍艦島」の3文字を島の絵と置き換えている。つまり島の寸法を示す数値をまわりにあしらうことで、「軍艦島」の3文字を島そのもののビジュアルに見立てている。タイトルの漢字そのものがより深い意味合いを持つ記号として立ち上がってくるのです。

意味を表す言葉としての文字だけでなく、その見た目から島の形状までも表現として立ち上がらせている。

王  僕の目的は、文字本来が持つ意味合いの重要性を引き上げ、文字からふくらむイメージの広がりを与えることです。実際の軍艦島が、平坦な土地でも等間隔の整然とした街並みでもないので、文字もそれを彷彿とさせるよう、不均等に並べました。

内容構成も原書とはまったく違いますね。

  原書では、テキストと写真が交互にレイアウトされていました。しかしこの本に掲載されている写真は、著者が30数年間ずっとタンスの中にしまっていて、やっと陽の目を見た貴重な記録です。その写真が、大切に扱われていないと感じた。だから写真の重要度を際立たせ、写真集のように見せるよう、まず写真を前半にまとめました。掲載サイズも原書より大きくしたので、写真はむだなくより良いかたちで扱われていると思います。原書ではさまざまな場所に分散して掲載されていたテキストは後半にまとめ、内容に対応する場所に小さな図を補足的に挿入しています。これらの編集を、一から手がけました。

王さんが編集者の役割も果たしているということなのですね。

  そうですね。写真は著者からデータを送ってもらい、解像度としてどこまで拡大可能かを見極めた上で引き伸ばしました。写真は特色グレーとブラックのダブルトーンで印刷しています。紙も印刷再現性の良いものに変えました。

原書のデザインを完全に凌駕していますね。