• 『我的母親手記』
    著:井上靖 訳:吳繼文  
    原題: 「わが母の記」
    無限出版 2013
    210×150×17 mm 

  • 『漢字的魅力 2013全新改版』
    著:滄浪 
    遠足文化 2013
    210×150×27 mm

霧室

Mistroom | ウーシー

次の本も手作業が感じられますね。

レイヨ 井上靖の私小説『我的母親手記』(わが母の記)は、台湾版の本の仕事のオファーが来る前に、映画を観ていました。認知症を発症した老母とその息子の物語なのですが、当時私の祖母も同じように物忘れが激しく、アルツハイマー病を患っていました。自分の状況と重ね合わせていたこともあって、とても感慨深かったのです。大切な家族の記憶が抜け落ちていく悲しみに共感しました。

ルイイ カバーの刺繍は、中国の有名な漢詩の一節「慈母手中線 游子身上衣」(慈愛深い母は針糸を手にして、旅に出るわが子が身に付ける衣を縫う)からヒントを得ました。一針一針に思いを込め、破れませんようにと、縫い目を細かに針を運ぶ母親の姿を詠った詩です。子が親を思う心以上に、子を思う親心を、私たちは刺繍というモチーフで表現しようと考えました。この刺繍も私が手がけました。

レイヨ 自分たちの手作業では時間がかかってしまうので、刺繍専門店やプロに何軒か聞いたのですが全員に断られてしまいました。井上靖の筆跡を写してつくった特殊な字体なので、対応できないということでした。それで仕方なくルイイが紙に文字を手縫いすることになったんです。カバーの裏側は、実際に刺繍の裏側を撮影したものを印刷しています。ですから、カバーを透かして見ると、裏側で飛び出している糸や刺し終わりの始末などが見えます。

ルイイ この仕事でわかったのは、表面のデザインだけを考えて刺繍を施しても、その裏側が予測できないものとして付いてくることです。

レイヨ 裏で潰れたり、絡まったりしている糸を見て、表向きは家庭円満に見えても、裏では大変な苦労がある、そんな親子関係や家族問題と同様だと感じました。外からは表層的な部分しか見えないけれど、内側は複雑に絡み合った状態です。母親への入り組んだ思いや、絡まり合った家族の絆も反映したいと思い、刺繍の裏側もカバー裏に刷ったのです。

内容とすごくつながっているんですね。

レイヨ 次は、『漢字的魅力』という本です。再版時に、若い読者層をターゲットにした新しいイメージにしてほしいという出版社の希望がありました。漢字を見慣れている若い人たちにその面白みを再発見させるのはかなりハードルが高いと思いました。漢字について語るとき、水墨画や書道の技法から伝えることが多いのですが、それでは意外性がなく若い読者の心には響きません。漢字の面白さは、部首や点画といった要素に解体可能で、その組み合わせによって、また新たな漢字をつくれること。それが魅力の一つであると思いました。

ルイイ また、字が持つ力や響きにも、それぞれ色、艶、香りがある。子供の頃に食べた、数字の形をしたビスケットを思い出し、漢字バージョンがないか探してみたのですが、残念ながらありませんでした。

レイヨ それで自分たちで漢字や部首を型取りしたビスケットがつくれないかと考えて、その頃海外に住んでいて料理の勉強をしている僕の親戚につくり方を教えてもらおうと、二人で訪ねに行きました。

ルイイ おじさんたちは一家総出で協力をしてくれました。卵や小麦粉などの材料を買い、生地をつくり、それを平らに伸ばし、文字をトレースして切ろうとしたのですが、なかなかうまくいかないんです。生地に弾力があるので、切ると伸びたり縮んだり。2日後には入稿しないといけない切羽詰まった状態になったとき、おばさんが「既成のシート生地で試してみれば?」と言うんです。葱餅(小麦粉に水と油、葱を加えパンケーキ状に伸ばして焼いたもの)の冷凍シートでやってみたら、思いの外すんなり切ることができて、それをオーブンとフライパンの二つの方法で焼いてみたら、うまくいったんです。

レイヨ カバーのデザインでは、読者がお店で袋入りビスケットを買うようなイメージで、ビニール袋の反射も入れて写真を撮りました。