• 『光陰 中國人的節氣』
    著:申賦漁 
    龍圖騰文化 2012
    200×170×15 mm 

霧室

Mistroom | ウーシー

本質を呼び覚ますしなやかな感性

文=渡部千春

女性の黄瑞怡(ファン・ルイイ)と、男性の彭禹瑞(ペン・ユゥルイ/ニックネーム=レイヨ)が主宰するデザイン事務所「霧室」。2010年の事務所の立ち上げからわずか5年の間に、ブックデザインの世界でめきめきと頭角を現してきている若手デザイナーだ。彼らの作風は一冊一冊が異なるが、刺繍や切り抜き、引きちぎられた表紙など、常に手の込んだ処理が施されている。本としてだけでなく、物としての存在感を感じさせるものだ。台湾のデザインメディアでは彼らの作品を表した言葉に「感性」「感覚」「五感」「質感」といった「感」の文字がよく使われる。本は読むものだけではなく、読者が手にとり「感じる」もの。いかにその「感」を伝えているのか、彼らのオフィスで話を聞いた。 

 

空間美から想を得た「霧室」の名

ルイイ(黄瑞怡)さんと、レイヨ(彭禹瑞)のお二人で「霧室」(ウーシー)を立ち上げたということですが、まずはその経緯をお話いただけますか。

ルイイ 私たちは以前同じデザイン会社に勤めていました。前の会社は主に展覧会・展示会・イベントのポスターやその周辺グッズなどを企画制作しているところでしたが、そんななかで、たまたま本を一緒に手がける機会があったんです。

レイヨ 本の担当はルイイだったんですけれども、当時彼女が忙しすぎて本を読む時間がとれなかったんです。ルイイから相談され、僕がまず本を読み、その要約と僕の考えを彼女に伝えて、それを踏まえて、ルイイが彼女なりの解釈でデザインを起こしました。そのやり方と結果的に出来上がったものに、二人とも満足できたんです。

このことがあって、初めてブックデザインとポスターとの違いを意識するようになりました。ポスターの寿命は短い。長くても数か月後には剥がされ、捨てられてしまいます。時間の制約があるポスターや展覧会に対し、読み継がれる本の持つ時間感はまったく別物です。時間が経つに連れて趣が異なってくる本は、違う場所で違う人に読まれることで、いろいろな可能性を秘めていると思います。この経験が、僕たちが本当にやりたいデザインや、これからの方向性について考える、いいきっかけとなりました。

本とポスターの違いに気がついたというのはいつ頃ですか?

レイヨ 5、6年くらい前です。その後すぐ独立して、一緒に霧室を立ち上げました。

霧室って不思議な名前ですね。その名前の由来は?

ルイイ 実は事務所を立ち上げるまでに20日間しかなかったんです。スタジオの構想は前の事務所を離れる前に出来上がっていましたが、ネーミングはずっと頭を悩ませていました。レイヨに何個か提案してみたものの、ブツブツつぶやきながら首を横に振るばかりで……。そんなときに、書店で妹島和世(SANAA)の写真集のような作品集を偶然手にしたんです。深みのある空間美や白い建築作品が放つ空気感に心を奪われました。建築物を眺めながら、「霧」という言葉が頭に浮かんだので、工作室(中国語の「スタジオ」)の「室」だけをとり、この二文字を組み合わせて「霧室」と名付けたんです。

仕事はどのような流れで進めていくのですか?

ルイイ ブックデザインの仕事を受けるときは、基本的には私がまず本を読み、その内容をもとにアイデアを出し、ラフスケッチを描いて、レイヨに提案をします。

主に私の心の琴線に触れた箇所や感動した点などをレイヨに伝えて、そこから感じたことをどうやってビジュアルに起こすかを二人で話し合います。カバーデザインについて、私は女性ならではの視点を持っているし、彼もまた男性の見方があります。意見のすれ違いは仕方ないと思うので、そのときはとことんディスカッションをします。そういうやり方の中から生まれてくる作品は、中性的なデザインが多いかもしれませんね。

レイヨ 補足すると、ルイイは僕よりもコミュニケーション能力が高く、アイデアの発想法や時間の使い方を得意としています。僕はどちらかというと、実践の部分を得意としているので、最初にルイイに読んでもらい、考えをラフスケッチに描いてもらっています。僕は本を読んでいないので、ルイイが言葉にする感想やあらすじから、本のイメージを膨らませていくわけです。お互いの視点を踏まえて具体的にデザインをどう起こしたらいいかは徹底的にディスカッションします。

例えばルイイが「水で女性らしさを表現したい」という提案があったとします。もし僕の中で水と女性がつながらないという場合は、ルイイの発想を理解した上で、女性らしさをどう構成したらいいのかをまた一緒に考えるわけです。

ルイイさんが先に本を読んでアイデアを提案するやり方が多いんですか?

ルイイ ほとんどの場合はそうですね。ただ本によっては、レイヨが読んだほうがいいと思うものもあるので、そのときは頼んでいます。

レイヨ 男性の視点や切り口から入って行ったほうがいいものもあるので、絶対に彼女からというわけではないんです。