• 何さんの篆刻による卒業制作作品

  • 何さんの自筆の般若心経。
    徐々に自分なりの文字が
    できあがってきたという

  • 運筆の様子。
    渦巻く雲のような
    文字が特徴的だ

何佳興

Ho Chia-Hsing | ホー・ジァシン

すごい! これはまた独特な、細かい字ですね。

  書とデザインで文字表現は相互に関係しあっているし、修行を重ねていくうちに字も変わってくるんです。昔は硬い骨格をしたカチカチな字を書いていたのですが、最近になって字にやっと生気が宿ってきたように感じます。書き続けていく中で、肉付けもちゃんと形にしていければいいのですが。

いまこれは何を書いているんですか?

  般若心経です。

こういう書体とはまた違う書体も書かれるんですか?

  今はこういう書体で書き続けています。勉強したので篆隷楷行草といった伝統的な書体も書くことができます。

これは他の人も読めるんですか?

  読めないと思います(笑)

どうやったらこんなふうに文字が書けるようになるんですか?

何  それほどすごいこととは思っていません。大学では、書道を専攻しつつ現代アートも学びました。ある授業で、人体と自己認識について学ぶ機会があって、身体の成り立ちはその人が歩んで来た歴史であり、それぞれの習慣や行動の積み重ねだというんです。それに気付いてから、僕も自分の軸というものを意識しはじめ、所作にも注意するようになりました。中心となる軸を見つけ、その線を書き続けていくうちに、自分の字が書けるようになってきます。本当にそんなに難しいことじゃなくて、むしろ忙しい日常の中で、筆を持って字と向き合う時間を継続的につくれるかどうかだけです。僕もさすがに毎日は書けないです。細切れの時間を使って、短時間で集中して書くようにはしています。

何さんのデザインは、字を書くといったすごく身体的な行為と、デジタル表現をうまく合わせているところが特徴的ですよね。デジタル表現に対してはどういう思いをお持ちですか?

  東洋美術の基本が線なのに対し、西洋は点、線、面で成り立っています。デジタルというのは西洋的な視点から生まれてきたものですよね。僕自身は生きた線を書く書道の訓練を受けていたせいか、コンピュータ上でレイアウトや文字組をするときも、線から構成を組み立てていっていますね。

大学の卒業制作では大きな掛け軸に篆刻をレイアウトした作品をつくりました。僕にとってグラフィックのレイアウトをすることと、篆刻の印面を整えることは同じなんです。篆刻で学んだ原則は、ブックデザインの基礎ともつながっています。例えば、面の割り出し、線の配置、材質との関係性、印と書または画との構成、印譜や掛け軸の制作といったことは、僕のデザインにも大きく活きています。

デジタルの線と、体から出てくる身体的な毛筆の線とはどういうふうに違いますか?

  基本的には同じだと思いますよ。筆で線を書くこととパソコン上で線を引くことは、道具が違うだけで、身体の構えや所作は一緒です。内から出て来る力といった部分は変わらないですからね。線で世界をつくるという意味で、僕の作品は東洋美術やその思想に基づいていると思います。

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何さんの作品は動と静、新と旧といった両義性が特徴になっている。シャープな作品と対照的に何さん自身は非常に穏やかで、謙虚な人だ。しかし、作品に対しての思いは熱い。

飽くなき挑戦心は、文字に対するさまざまな試みや、台湾の伝統文化の再構成、予想しないような本の構成や色使いに現れている。そして、それでもなお、まだまだ勉強し続け、50歳、60歳になった時の自分の作品がどう変わっていくかを楽しみにしているというのだから、恐れ入る。

何さん本人、そして作品は、とても台湾的だとも言える。普段とても穏やかに見えて、しかしその内側にはとてもエネルギッシュな力を持ち、いざというときに爆竹のようにその力が吹き出す。見ている側は、驚き、楽しみ、そしてそこに触発されて自らもそのエネルギーを得て一体となっていくのである。


何佳興|Ho Chia-Hsing

1975年台北生まれ。国立台湾藝術学院(現・国立台湾藝術大学)美術科中国画専攻。書道、篆刻、現代アートを学ぶ。2000年より実験的な書道を発表。卒業後、2001〜2002年、人智学教育基金会(慈心華德福学校)、2002〜2005年、誠品書店・美術担当を経て、2006年に個人の事務所Timonium lakeを設立。他に2003〜2009年にアーティストの活動集団「新樂園」に所属し、同展覧会スペースで2007年、2009年に個展、2008年にグループ展参加するなど、アーティストとしての活動も行っている。