• 何佳興さん。
    オフィス兼自宅にて

  • 「牯嶺南海社區劇場2011夏綠地」のポスター

  • 『心經・經心――現代藝術經本』
    著:林隆達
      中華蓬萊上善若水文化協會 
    出版:向陽文化 
    発行:遠足文化 2010
    210×149×10 mm 

何佳興

Ho Chia-Hsing | ホー・ジァシン

モノトーンの世界から突然変わりますね。

何  出版社側は受け入れてくれないかもしれないですね。もっと前衛的なお経をつくりたいと説得しているところです(笑)。

ポップなお経ですね。

  般若心経はこういう感じに合うと思いますよ。

書籍に戻りますが、この本は弘一大師(弘一法師/18801942)による手書きの経典ということですよね?

  ええ。弘一大師は中華圏の仏教の世界ではとてもよく知られている名僧で、日本にも縁のある方です。弘一大師の手書き文字に、前衛的なデザインを組み合わせたら既存のイメージを覆す斬新な試みになると思うんです。

この本はカバーの端が削れていたりしますが、意図的に古めかしい処理にしたんですか?

  これは使っているうちに経年変化していったんです。最初は真っ黒でしたが、色落ちや傷みやすさ、使っていくうちにこういう状態になることを想定してつくったんです。当初、出版社は渋っていましたが挑戦させてくれました。

初版を出してみて、このような古びる表紙がよかったということで、第二版もこんなふうに黒が剥がれやすい仕様にしたということですか?

  そうです。初版のときは賛否両論でしたが、それでも引き続き試してみようと、第二版も同じ仕様にしました。第二版後は、読者からの反響もよく、「自分が使ってきた痕跡や癖がついて、使い込むほど愛着が湧く」といった感想も聞きました。時とともに風合いが増す様子も楽しんでほしいと思っています。

次に紹介する『心經・經心——現代藝術經本』も般若心経の本ですが、別の視点から切り込んでいるので、また一味違ったものです。この本は出版社の社長から「旅先でも手軽に読めるお経、旅のお供になるような一冊にしてほしい」と言われてつくったものです。

カバーが繊細な紙ですね。

  日本の竹尾のクレープトレーシングという紙(現在、取り扱いなし)を使っています。こういう独特の風合いをもつ紙は台湾になかったので日本から取り寄せました。白い紙が持っている穏やかな輝き方は般若心経の世界観を表していると思いました。「紙の特性を最大限に生かす」という点からデザインを考えていきました。実は紙の裏面を表に使っているんです。裏と表とでテクスチャーが違う紙で、表面だと、印刷の黒と紙の質感とのバランスがとれなくて、お互いを際立たせることができなかったんです。裏面に刷ってみたらテクスチャーを感じられるのと同時に、紙の透け感と黒もうまく合って見えたので、それで行こうと。

袋とじになっていたり、蛇腹折りになっていたりするのは、お経ならではの特徴なんですか?

  そうですね。丁寧に本を扱う慎重さを表現したかったので、伝統的な経本の作りを参考にしました。読経というのは一般的な書物と違って、独自の作法や心得があります。通常、お経は経卓(経机)の上に乗せて読むので、閲覧の速度もゆっくりとしたテンポになります。内容を噛み砕き、一字一句吟味しながら、読み進めていく。そのリズム感が重要だと思います。弘一大師の書を、字そのものの美しさを楽しみながら読めるのも、この本の特徴の一つです。