• 『金剛經、心經――弘一大師手書 
    Vajra Sutra & Heart Sutra』
    著:李叔同 
    南方家園文化 2010 初版
    215×155×31 mm

何佳興

Ho Chia-Hsing | ホー・ジァシン

時を超えてデザインに挑む

文=渡部千春

エンボスのイラストが入った白い表紙とピンクと緑の帯の対比が美しい小説『1980年代的愛情』。台湾の優れたブックデザインを選ぶ金蝶獎の2014年の大賞を受賞した作品である。この本をデザインした何佳興(ホー・ジァシン)の作品には、蛍光色や原色、金銀を大胆に使ったポップなデザインの一方で、モノトーンの矩形だけで構成したシャープな経典も手がけている。伝統的・土着的なモチーフを使うこともあれば、CGによる線画のイラストレーションも描く。動と静、新と旧──なぜこのように幅を広く持てるのか。その背景には、彼が続けてきた書の世界、そして深く思いを寄せる仏教の世界があるようだ。 

 

時代に合った経典をつくる

はじめまして。まずは作品をいくつか見せていただけますか?

  そうですね、じゃあ、般若心経(心経)の本からいきましょうか。

最初に説明しておくと、僕は西密と言われるチベット仏教に深く傾倒しています。日本の仏教も素晴らしいと思っていますよ。三十三間堂に行ったときには圧倒されました。また、日本だと経本がいろんなスタイルで出版されていて、ポップだったり、カラフルなものだったり、伝統に引っ張られずに、遊び心もあって、最初見たときは驚きました。こういう日本の仏教文化や仏教美術の発展の仕方には本当に眼を見張るものがありますし、勉強させられることも多々あります。

『金剛經、心經——弘一大師手書  Vajra Sutra&Heart Sutra』の仕事が来たときはすごく嬉しかったですし、取りかかるときも気持ちがぐっと入りました。お経というと、いまの若い人たちには少し縁遠いものかもしれませんが、僕は時代に淘汰されない読み物だと思っています。日本の経本にさまざまな表現方法があるように、いまの台湾の人に必要な癒しと時代に合った魅力を持つ般若心経のアプローチを編集者と一緒に考えました。

『金剛經、心經』はこちらに2冊ありますね。

  初版と第二版です。内容は同じですが、紙を変えて、中身の文字組やレイアウトも構成し直しています。初版は、触ってもらえばわかるのですが、少しザラザラとした感触で素朴で暖かみのある紙を使っているのに対し、第二版はもっと大胆で、現代的な感性が伝わるような感じ。少し冷たい白というか、手触りもツルっとした紙を選びました。第二版では書体、文字のサイズ感、カーニング、空間の使い方など、初版で満足がいかなかった部分を調整しています。

それぞれ何冊ずつ刷ったんですか?

  初版が3000冊かな。第二版は2000冊くらいだったと思います。

第二版のほうが少し文字が開いていて、風通しがよい感じですね。

  初版は、伝統的なお経の読み方に沿った文字組や文字詰めになっているので、文字に重みがあり、しっかりとまとまった印象があるかと思います。第二版は字間も広げ、洗練された雰囲気が伝わるように工夫をしました。第三版も決まっていますが、もう一度全体の構成と位置づけを見直す必要があります。

第三版はどういうコンセプトになるんでしょう? もっと軽くなる感じですか?

  まだ出版社と話し合っていないので何とも言えませんが、自分の希望を言えば、例えば表紙の文字を、いまは黒ですが、色を変えたいですね。そうすることで、もっと軽やかさが出ると思います。理想を言えば、これはまったく別の展覧会用につくったポスターですけど、こんな配色にしたいんです。