• 『越級申訴』
    著:太宰治 訳:湯家寧 
    原題: 「駆込み訴え」
    逗點文創結社 2013
    210×149×15 mm

小子

Godkidlla | シャオツー

ありふれた印刷加工の逆手をとる

小子 次に、これは太宰治の『駆込み訴え』(『起級申訴』)です。

ビジュアルは「走れメロス」のイメージですか?

小子 そうですね。表紙は「走れメロス」をモチーフに、グラフィティな感じを出しています。裏表紙は書き文字でびっしりと埋め尽くしているんですが、こんなふうに書いたのは、太宰治という人物のナイーブな内心世界を反映したかったということと、彼の抱いていた世の中に対する鬱憤や不満を表現したかったからです。太宰の文章を追っていくと、この世に訴えかけたいことを、どこか逆説的な表現で主張していることがうかがえます。隠し切れない彼の苦悩、葛藤、不安……。ほとばしる複雑な感情が爆発するかのような、そんなデザインにしたいと思いました。書き文字にしたのは、既存のフォントで太宰の文章を組んでしまうと、整いすぎて味気ないものになってしまうからです。彼の怨念を込めた語りは、手書き文字で表現しなければ世界観を引き出せないと思いました。

台湾の出版社も予算のない中で経営しているので、限られた予算内でどう効果を上げるのかがいつも悩ましいところです。シンプルな方法で、いかに納得のいくデザインに仕上げるかを考えなくてはならないのですが……。

この表紙、まわりにツヤがあり、文字部分がマットで凹んでいます。これは文字部分に顔料箔を押して……、いや違う、周囲をUVニス加工で盛り上げているんですか?

小子 そうです。台湾でよく見るごく普通の表紙デザインでは、題字部分などに部分的にUVニス加工をして盛り上げ、光沢を持たせているのですが、こうしたやり方は面白みもなく、本当にありきたりです。そのダサい方法を反転させたデザインがこの『駆込み訴え』です。普通なら局部的にUVニスを厚盛りするのを、逆発想し、局部だけUVニス加工をしないようにした。それによって凹凸感を生み出しているんです。なぜこんなふうにしたのかというと、限られた予算内で箔押しやエンボスといった加工によって凹凸を出すのは、コスト的にとても厳しい。けれど、文字を凹ませるのではなく周囲をUVニスで盛り上げれば、似たような効果を出すことが可能だからです。

UVニス加工をとてもうまく使っていて、お金をかけたブックデザインに見えます。

小子 いかに低いコストでデザインの魅力を効果的に伝えられるか。いつもそれを考えています。日本に比べ、台湾では活字を読む層、読者人口が少ないため、出版社が印刷加工にかけられる予算には限界があります。僕から出版社に予算を増やしてくれるようお願いし続けるわけにもいかない。出版業界を取り巻く事情や環境もあるので、従来見慣れたよくある手法をいかに逆手に使うかが大事です。プロセスの順番を変えたりしてね。予算は少なくても創意工夫でカバーし、予算内で実現可能なデザインでどうしたら最大の効果が引き出せるのか、いつもいろいろと考えて、苦戦しながらやっています。