• 『眉角』(DECODE)創刊号
    特集「占拠」
    眉角出版 2015
    293×205×15 mm

  • 雑誌『眉角』の表紙イラストレーションに
    用いられたステンシル版。
    1枚1枚、手でカットされている

小子

Godkidlla | シャオツー

一つとしてデザインされていないものを
存在させない

文=雪朱里

「ビールはいかがですか」。インタビューは、その一言から始まった。デザイナー小子(シャオツー)の自宅兼仕事場は、台北市のほど近く、永和地区にある。曰く、「たくさんの人が押し合うように生きている街であり、台北市への交通の便が良く家賃も比較的安いため、作家やアーティストが数多く住んでいる土地」彼がここに住んでいる理由は「僕はこれまでずっと一人でやってきたし、通勤は嫌いですから」「一つとしてデザインされていないパーツを存在させたくない」と細部までこだわり抜いたブックデザインを手がけ、いまや台湾屈指の人気デザイナーとなったが、気取らぬ人柄は駆け出しの頃と何も変わらない。「堅苦しい雰囲気ではなく、ビールを飲みながら、ざっくらばらんに話しましょう」――不意打ちに驚いたが、それはいかにも彼らしい言葉だったのだ。

 

新しいメディアの創造

いま、雑誌をつくられているそうですが。

小子 社会問題を取り扱った専門誌『眉角』です。台湾の一般的な雑誌は記事の内容が浅く、更新頻度の高い情報が氾濫するばかりで、問題の追求からはほど遠いものがほとんどです。だから僕たちは、時勢や社会問題を深く掘り下げた良質なコンテンツメディアを自分たちでつくりたいと思いました。編集部のメンバーは5人で、うち編集者が3人、本文組版を行うデザイナーが1人、そして僕がアートディレクションを担当しています。表紙デザイン、本文のフォーマットデザインとおおまかな誌面調整を僕が行い、そのフォーマットに則ってデザイナーが本文を組むというかたちです。

雑誌の内容をもう少し詳しく教えていただけますか。

小子 創刊号の特集は「占拠」でした。2014年に台湾で中国とのサービス貿易協定に反対するヒマワリ学生運動が勃発し、続いて香港では民主化デモの雨傘革命が起きた。そこで、世界で起きたデモや暴動、占拠運動が民族自決とどう関係するのか、それらを論じた内容構成にしました。日本の事例としては、東大紛争を取り上げています。

第2号の特集は「食品の安全性」。「食品を体内に摂り入れ、ただ空腹を満たすこと」と「食事を摂ること」との違いなども取り上げています。

表紙デザインは、僕が責任を持って担当しています。創刊号の表紙は、ステンシルグラフィティのような、ストリートアート風の感じを出したかったんです。ステンシルの版は紙を切り抜いてつくり、スプレーを吹き付けて色をつけていきました。

全部で何版ありますか?

小子 1色1版で、当初は7版の予定でしたが、エフェクトをつけるため、さらに枚数が増えてしまいました。このイラストレーションは、「占拠」という特集テーマに合わせて、催涙スプレーを持った抗議者が、それを投げ返す場面を描きました。デモの現場では、政府がよく催涙剤で鎮圧しようとします。反抗する民衆は、工業用手袋やビニール手袋をつけて、その催涙剤を拾っては警察側に向かって投げ返す。これは抗議活動の象徴的なアクションでもあります。僕はさらにその人物の姿を、非常口のピクトグラムと重ね合わせました。なぜなら、抗議活動は一見、占領行為にも見えますが、同時に、命からがら逃げなくてはならないものだからです。

表紙は一見、黒い紙に見えますが……。

小子 実際は、白い紙です。絵柄以外の部分は両面黒を刷っています。オフセット

のプロセス4色で印刷した後、立体感が出るよう、部分的にUVニス加工をしました。本当は黒い紙を使いたかったのですが、紙見本でチェックしたとき、黒だとどうしてもキズがつきやすいことがわかり、諦めました。運送時に紙が傷んでしまうと、返品やクレームにつながりますから。

ベースの黒い部分も、単に黒をベタで印刷しているのではなく、スプレーで白い紙を1枚、黒く塗りつぶした原画をつくってから、それをスキャンして、印刷しているんです。そうすることで、スプレーを吹き付けた紙の質感……、本来のディテールや凹凸を再現しています。この美しい質感は、パソコン上の作業で自然に出せるものではありません。

確かにそうですね。

小子 そして、この雑誌の最も大きな特徴は、制作資金をクラウドファウンディングで集めたことだと思います。雑誌の趣旨、なぜ僕たちが新たにこの隔月刊の雑誌を創刊する必要があると思ったのか、台湾におけるニュースメディアの多くがデザイン性に欠けているので、優れた誌面デザインのニュースメディアをつくりたいと考えているということをウェブ上でプレゼンテーションした結果、最終的には台湾ドル500万元のファウンディングに成功しました。

日本円で約2000万相当。クラウドファウンディングでそれだけの金額を達成するのはめったにないことかと思いますが、なぜそうした結果に結びついたのでしょうか。

小子 実は僕たちも、台湾人がこんなにも支持してくれるとは思ってもいませんでした。台湾の人々がいかに既存マスメディアの軽薄化した報道の手法に嫌気が差していたのか……、ある種、いまの時代を象徴する反響だったのかもしれません。ちょうどそういうタイミングに、世論と同じ意識を持ち、社会問題を深く掘り下げた独立系の雑誌を立ち上げたいと僕たちが訴えたので、社会に強い関心や意見を持つ層に受け入れられたのだと思います。僕たちもファウンディングが成功するとは、夢にも思っていませんでした。募集期間中は毎晩、まるで株の動向でもチェックするかのように、ハラハラしながら数字を見守っていました。ところが締切1週間前には目標金額に到達し、プロジェクトの達成が確定した。本当に驚きました。

『眉角』は何部つくったのですか?

小子 約4000部です。

ファウンディングの出資者だけでなく、一般販売も行ったのでしょうか。

小子 書店でも販売したのですが、すぐに完売してしまいました。

すごい人気ですね。